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一頭の黒毛和牛が生まれてから、牛肉として出荷されるまで。
ずっと同じ農家が育てていると思われるかもしれませんが、実際の和牛生産では、仔牛を生み育てる「繁殖」と、その仔牛を導入して出荷まで育てる「肥育」を、別々の農家が担うことが多くあります。
そして、その繁殖農家と肥育農家をつないでいるのが「仔牛市場」です。
おがわ牛も、もともとは肥育から始まった牛づくりですが、現在は繁殖と肥育の両方に取り組んでいます。
一頭の牛が、どんな人の手を通り、どのように育っていくのか。その仕組みを知ると、「産地」や「生産者」という言葉の向こうにある和牛づくりの仕事が、少し身近に見えてきます。
繁殖農家から出荷までの一般的な流れ
黒毛和牛が生まれてから出荷されるまでには、大きくいくつかの段階があります。
繁殖
繁殖農家が母牛を飼い、交配、妊娠管理、出産、仔牛の哺育や育成を行います。
仔牛市場
おおむね8〜10ヶ月齢まで育てられた仔牛が出品され、肥育農家などが購入します。
肥育
肥育農家が素牛を導入し、健康や体重の増え方を見ながら、出荷できる状態まで育てます。
出荷・枝肉取引
肥育を終えた牛が出荷され、と畜後は枝肉となり、格付を経て取引されます。
農林 水産省が2016年に公表した消費者向け資料では、一般的な例として、繁殖農家が仔牛を8〜10ヶ月齢まで育て、その後、肥育農家が約20ヶ月育てる流れが紹介されています。
月齢は地域や経営によって前後しますが、「仔牛市場」が繁殖農家と肥育農家をつなぐ場所になっていることは、和牛生産の仕組みを知るうえで大切なポイントです。
繁殖農家は母牛と仔牛の両方を管理する
繁殖農家の仕事は、仔牛が生まれる前から始まっています。
まず、繁殖に使う母牛を飼養し、交配や人工授精を行います。妊娠中は母牛の健康を管理し、出産を迎えます。
仔牛が生まれたあとは、初乳をきちんと飲ませ、哺乳、離乳、病気の予防、発育管理などを行いながら、仔牛市場へ出せる段階まで育てていきます。
そして、繁殖農家が見ているのは、目の前の仔牛だけではありません。母牛が次にいつ妊娠し、どのくらいの間隔で出産できるかも、繁殖経営にとって大切な要素です。

仔牛を元気に育てること。そして、その仔牛を産む母牛の健康も守ること。繁殖農家は、母牛と仔牛の両方を見ながら牛を育てています。
仔牛市場では仔牛そのものが取引される
繁殖農家が育てた仔牛は、「仔牛市場」で取引されます。農林水産省の解説では、肥育農家などの購買者は、血統、体形、体重、毛並みなどを見ながら仔牛を選ぶとされています。
ここで取引されているのは、まだ肉になっていない仔牛そのもの。牛肉になったあとの枝肉市場とは、別の市場です。
肥育用として導入する若い牛は「素 牛」と呼ばれます。肥育農家にとって素牛の購入価格は大きな原価の一つですが、購入する時点では、将来その牛がいくらの枝肉になるのかはまだ分かりません。
繁殖農家にとって仔牛市場は、育てた仔牛を販売する場所。肥育農家にとっては、これから育てる牛を仕入れる場所。同じ仔牛市場でも、それぞれの立場から見ると、違う意味を持っています。
肥育農家は素牛を出荷できる牛に仕上げる
肥育農家は、仔牛市場などで購入した素牛を、出荷まで長い時間をかけて育てていきます。成長段階に合わせて飼料を調整し、健康状態や体重の増え方を見なが ら、牛舎環境も管理します。
目標は、ただ牛を大きくすることではありません。出荷したときの枝肉重量や脂肪交雑、肉の色沢、締まりやきめ、脂肪の状態なども見据えながら、一頭一頭の発育と体調を整えていきます。

素牛を購入してから、その牛を販売するまでには長い時間があります。
その間には、飼料価格が変わることもあれば、仔牛価格や枝肉相場が動くこともあります。肥育農家は牛を育てる技術だけでなく、「仕入れてから販売するまでに時間がある」という経営上のリスクとも向き合っています。
繁殖と肥育が分かれている背景
では、なぜ「繁殖」と「肥育」は別々の農家が担うことが多いのでしょうか。大きな理由の一つは、それぞれに必要な設備や技術が違うことです。
繁殖では、
母牛を飼う設備
分娩場所
仔牛を哺育する設備
繁殖管理の技術
などが必要です。
一方、肥育では、
成長した牛を長期間飼う牛舎
大量の飼料
健康や増体の管理
出荷管理
などが必要になります。
どちらかの段階に専門化することで、それぞれの設備や経験を集中させることができます。
そして、両者をつないでいるのが仔牛市場です。繁殖農家は仔牛を販売し、肥育農家は血統や発育を見ながら、育てたい素牛を選ぶ。
一方で、仔牛価格が高くなれば肥育農家の負担が増え、肥育農家の購買力が下がれば繁殖農家の販売価格に も影響します。
繁殖と肥育は別々の仕事ですが、市場を介しながら、お互いにつながっています。
一貫経営は繁殖から肥育までを同じ経営で担う
繁殖と肥育を分業せず、同じ経営体で両方を行う方法もあります。これを「一貫経営」や「一貫生産」と呼びます。
自分たちの農場で生まれた仔牛を、そのまま自分たちの肥育牛舎で育てれば、出生か ら出荷までの飼養情報を一つの経営の中で連続して管理することができます。
また、自家で生まれた仔牛を自家肥育に回す場合、仔牛市場で素牛を購入する価格変動の影響を受けにくい面もあります。
その一方で、
母牛の管理
出産
哺育
育成
肥育
まで、すべての設備と技術が必要になります。
一貫経営だから自動的に牛肉の品質が高くなるわけではありません。管理する範囲が広い分、それぞれの段階で牛の健康、繁殖成績、飼料、牛舎、人員などを整えていく必要があります。
分業と一貫経営は、どちらが優れているというものではなく、経営の規模や設備、地域の流通条件などによって選ばれる形が違います。
おがわ牛では、繁殖から肥育まで牛の成長を見つめる
おがわ牛は、1979年に和牛の肥育からスタートしました。その後、2017年からは繁殖事業にも取り組み、現在は母牛から仔牛が生まれる繁殖と、肉牛として出荷まで育てる肥育の両方を手掛けています。
生まれた仔牛は、すべてが同じ進路をたどるわけではありません。
生後9〜10ヶ月頃になると、
仔牛市場へ送り出す牛
自社の肥育牛舎へ移る牛
という二つの進路に分かれます。
つまり、「繁殖も肥育も行っている」からといって、生まれたすべての仔牛を、自社で出荷まで育てているわけではありません。
仔牛市場を通じて次の肥育農家へ託す牛もいれば、自社でそのまま生後30ヶ月まで育てる牛もいます。逆に、他の繁殖農家が育てた仔牛を仔牛市場で購入して肥育することも多くあります。
普段、私たちが目にするのは「牛肉」にな ったあとの姿です。でも、その前には、母牛の出産から始まる長い時間があります。一頭の牛が生まれ、育ち、ときには別の生産者へ託されながら、牛肉として届けられるまで。
その背景まで知っていただくことで、おがわ牛のことも、和牛づくりという仕事のことも、少し身近に感じていただけたらと思っています。
実際の月齢ごとの成長は「誕生から出荷まで」で。
1979年から続く牛づくりと、繁殖事業を始めるまでの歩みは「おがわ牛を育てる人」でご紹介しています。
2026年9月25日
黒毛和牛の「繁殖」と「肥育」とは?生まれてから出荷までの生産の仕組み

